甘く苦く君を思う

昴サイド

海外勤務を終え、ようやく日本に戻ることができた。
雨が降るたびにあの日の記憶が蘇る。
あの時俺は沙夜を信じきれなかった。周囲の声に流され、沙夜がお金を受け取ったという噂を信じてしまった。
彼女のまっすぐな瞳を前にしながら、俺は迷い、そして彼女を傷つけてしまった。
どうして……あんなことを言ったんだ。
なぜ彼女の言葉を信じられなかったんだろう。
後悔が何度も胸を締めつけた。
でも気がついた時にはもう彼女はこの街から消えていた。

あのあと冷静になり、ようやく自分のしてしまったことの大きさに胸が苦しくなった。
彼女の部屋に行くが空っぽで、ポストにテープが貼られており、名前もなくなっていて唖然とした。
勇気を出して尋ねた「ル・ソレイユ」も彼女は辞めたと知らされた。
チーフパティシエの風間さんが出てきてくれ、店の外でそっと事情を知らされた。
それはお店の中でも彼女が俺の両親からお金を受け取ったと噂されていたことや、材料の卸売の業者でさえ彼女の悪い噂が流れており苦しい状況にあったとのこと。そして体調を崩し、そのまま辞めてしまったと言われた。

「あなたはもっと誠実な人だと思っていました。彼女はそんなことをするような子じゃない。とても優秀なパティシエールで将来も楽しみにしていたのに残念です」

それだけ言うと俺をジトっと睨み、大きく息を吐くと店の中に戻ってしまった。
彼女の将来を潰したのは俺だ……。
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