甘く苦く君を思う

再会

雨が降り始めた夕方、今日はもうお客さんもそんなに来ないだろうと横井さん夫妻は渚のお迎えに行ってくれる。
車のない私がお迎えに行くと渚は水たまりで遊び始め、つい先日もびしょ濡れになってしまい風邪気味だ。それもあり、今日はふたりが車で渚のお迎えに行ってくれる。私も車が必要だと思う時はあるが、免許をとりに行く時間も金銭的余裕もない。

渚が帰ってくるまで最後のケーキの仕上げをしておこうと厨房で集中していた。
するとお店に人が入ってきた気配を感じた。と同時に私の名前を呼ぶ声がかすかに聞こえる。
顔を上げるとそこにはあれほどずっと想像し続けていた彼の姿があった。

「昴さん……」

思わず彼の名前を呼び、ハッとした。

「……いらっしゃい、ませ」

厨房から出てショーケースの前に立つ。
彼とはもう終わっている。たまたま入ったお店に私がいただけ。そう気持ちを落ち着かせていると彼も驚いたような表情を浮かべていたがショーケースに目を向け、ケーキを指さしていた。

「あれと……、このケーキをください」

はい、と震える声を隠すように小さく返事をすると箱にひとつずつ詰めた。

「お待たせしました」

箱を手渡すと彼は笑顔で私を見つめてきた。

「やっぱりこの味は沙夜のだったんだな」

そう言われ私の心は飛び跳ね、苦しくなってしまった。
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