甘く苦く君を思う

甘やかな日々

ある夜、仕事を終えると店の近くの街灯の下で高倉さんが立っていた。
偶然仕事帰りに会うことはたまにあった。それ以外でも時々食べにきてくれていたので週に1回は最近会っていたように思うが、彼がここに立ち尽くしているのを見るのは初めてだった。
スーツ姿で立つ彼は相変わらず目立つ存在で、通りすがりの女性たちが思わず振り返っていた。私が店か出てきたのに気がつくと彼は軽く手を挙げた。

「お疲れさま。もし今日この後よかったら、甘いものではなくて大人っぽいお店に行きませんか?」

「大人っぽい?」

彼の提案に私の心臓は高鳴る。

「えぇ。ワインとチーズの美味しい店を聞いたんです。明日沙夜さんはお休みだから一緒に飲めるかなと思って」

確かに明日は定休日。何度もうちのお店に来ている彼ならば把握していることだろう。私が彼の誘いに頷くと、表情が和らいだのに気がついた。こんなに会っているけれど、一緒に食事をするのは初めてだ。
彼に案内され入った小さなレストランは照明が柔らかく、壁には絵画が飾られたいる落ち着いたお店だった。

「なんだか不思議。こうして高倉さんと飲む日が来るなんて」

私はワイングラスを片手に、ふふふっと笑ってしまう。こんな素敵なお店で彼とワインを飲んでいるなんて現実ではないみたい。正面に座る彼の表情がいつもより柔らかく見えるのはこの照明のせいだろうか。

「沙夜さん、正直に言います。あなたと過ごす時間が好きでたまらないんです。……俺と、付き合ってください」

 彼のストレートな言葉と真剣な瞳に心を射抜かれ、心臓が大きく跳ね上がる。私も彼といる時間がすごく楽しくて、日を追う毎に彼をもっと知りたいと思っていた。でもまさか彼もそう思っていてくれているなんて……。
私の目をじっと見つめる彼は私の言葉を待っていた。

「……はい」

よかった、と小さな声が聞こえてきた。ホッとしたようにワインをくいっと一口飲んでいるのを見て私もなんだか胸が温かくなった。
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