甘く苦く君を思う

渚の手に繋がれた心

「まま、おじちゃんだ!」

公園に現れた昴さんを見つけ、渚は満面の笑顔で駆け寄った。泥だらけの手を彼に差し伸べるのを見て驚くが、彼は自然にしゃがみ込み、その手を受け止めた。

「また会えたね」

その声に、渚は嬉しそうに頷き、ブランコへと引っ張っていく。
その様子を見守りながら、私の心の奥に複雑な感情を抱いていた。なんだか自然と馴染むその雰囲気にしばらく見入っていまった。
砂場の前のベンチに座り、渚を見ながら休憩していると昴さんが真剣な表情で口を開いた。

「……両親のこと、謝りたい。突然、君の店に行っただろう。本当に申し訳なかった」

その言葉にわずかに眉を寄せた。

「……驚きました。正直、動揺して……渚にも不安な顔をさせてしまったんです」

「そうだよな。本当に申し訳ない」

隣に座る私に向かい合うように姿勢を正し、頭を下げる彼を見て、何だかこの間から彼に謝らせてばかりだなと私の方が彼に罪悪感を感じる。

「どうして昴さんはここまで私たちにこだわるの? あなたにも立場があるでしょう。もう私たちのことはいいから放っておいて欲しいの」

「そんなこと出来ない」

即座に反応した彼の声は力強く、意志の強さを感じさせられた。
そんな様子を見て、私は視線を外し前を見ながら

「もう終わりにしませんか。こうして別々の道を歩き始めているんです。私もこの子との生活が大切なんです。もう過去のことは忘れましょう」

「ダメだ。俺が本当に大切に思っているのは沙夜なんだから。まだ俺を信用してもらえていないとわかっている。もう少しだけ時間をくれないか?」

このままの関係を引き延ばしていてもいいことはない。この前のように渚に不安な顔をさせたくない。私の顔色を見るような子に育てたくはない。この前までの静かな時間に戻りたい。
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