英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ～旦那様、悪妻の私を愛さないでください～

第1話 ハズレの女（１）

「本日から臨時スタッフとしてお世話になります、日浦(ひうら)香澄(かすみ)と申します。皆様のお役に立てるよう精一杯がんばりますので、よろしくお願いいたします」

　繁忙期だけの短期雇用とはいえ、勤務初日の第一印象は大事だ。まっすぐな黒髪をひとつにまとめ、紺色のスーツに身を包んだわたしは、きゅっと口角を上げながら、オフィスフロアにいる社員たちに向けてきびきびと頭を下げた。

「派遣の日浦さんね。僕は営業部で係長をしている吉川(よしかわ)です。うちはこれから年末にかけてが特に稼ぎ時でね。大量の注文伝票をばんばん処理してもらうから、よろしくね」

　ひとりの男性社員が近づいてきて、にこやかに挨拶をしてくれた。眼鏡をかけたインテリ系の好青年。今年三十五歳になったわたしと年齢が近そうだ。

「吉川さん、ですね。よろしくお願いします」
「うん。それじゃあ、日浦さんの席に案内するよ」

　直属の上司となるらしい彼が優しそうな雰囲気の人で、ひとまず安心した。これまで派遣先によっては、パワハラやセクハラなど辛抱しなくてはいけないときもあったから……。