英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~

第40話 愛する人のために(1)

 王城の一室に拘留されたわたしは、ぽつりと置かれた椅子に腰かけ、呆然と宙を見つめていた。

 取り急ぎ放り込まれたその部屋は、埃っぽくて殺風景だ。最小限の家具に水差しとコップが用意されているが、窓は換気用の小さなものしかなく、扉の外には兵士が張りついている。

(はぁ……なぜこんなことになったの……?)

 二度とまみえることはないと思ったイレーヌ姫が、まさかこんな形で仕掛けてくるなんて想像もしていなかった。勝気な性格であることは知っていたが、自国に戻ってからも悔しさを募らせ、復讐心を燃やしていたのだろうか。

 あちらの公爵は、娘の涙ながらの訴えを信じ込んでいるようだ。
 わたしが悪者として仕立て上げられ、公国にひとり連れていかれたならば、まず無事では済まない。おそらくは釈明の余地もなく、姫の思いどおりに処刑台の露と消えることになる――。

 ぞくりと寒気が走り、震える我が身を抱きしめた。
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