クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない

(ヒーロー目線)彼女の悩みの種

 なんとなく、里咲の様子が暗い。
 智田がそう気づいたのは、島崎店長とともに謝罪をしたあの日から数日後のことだった。

 いつものように店長業務のフィードバックやモデル店舗としての評判を伝えるために、彼女の店舗へ向かう。
 スタッフルームで店長として振る舞う彼女はいつも通り冷静で、売場改変の成功をスタッフたちとともに喜び労う姿は店長の鑑だと思った。

 だが、ミーティングルームに入りふたりきりで話していると、彼女の顔が時折曇る。

 モデル店舗の店長としての仕事が、大変なのかもしれない。以前飲んだ時もそんなことを言っていたなと思い出し、それとなく聞いてみる。
 だが彼女は店長業務をそつなくこなしており、それどころか新たな課題を共有してくれた。

 そもそも、彼女はいつからこんな表情を自分に見せるのだろう。思い返すと、彼女は飲みに誘ったあの日の別れ際あたりから、既にどこか暗かったように思う。

(ということは、原因は俺か?)

 彼女と恋人になり、名前で呼び合うようになった。だが、彼女はどこか遠慮がちで遠い。
 自分のドジを笑わずに傍にいてくれることは嬉しいが、だからといってなにか近づいたかというとそうでもない。

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