クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない

(ヒーロー目線)クールなシゴデキ上司の素顔

(どうしてこうなってしまったんだ)

 帰宅後、智田は玄関を入ると明かりをつけるのも忘れて靴を脱ぎ、部屋に上がった。
 先ほどからため息ばかりがこぼれてくる。脳裏に浮かぶのは、別れ際の彼女の顔だ。

『お疲れさまでした』

 不動はタクシーの扉の縁に頭を打った智田を気にするそぶりもなく、淡々とそう言って前を向く。そのまま、タクシーは去っていった。

 格好悪すぎるだけでなく、興味も示されない。呆れられたのかもしれない。
 再度ため息をこぼしながらリビングに入ると、ゴンっという鈍い音とともに右脛に激痛が走った。ローテーブルにぶつけたらしい。そこでやっと、部屋の明かりをつけていないことに気がついた。

(ことごとく失敗ばかりだ。アプローチとは、どうしたらよいのだろう)

 考えながら部屋の入口まで戻り、明かりをつけてからソファへ戻る。どさっと腰を下ろすと、重たい体が全部そこに沈み込んでしまいそうな心地がした。

 不動への気持ちを恋心だと自覚したのは、昨日のこと。それも他人に言われて気づくなんて、どれだけ鈍感なのだろう。

 智田は不動と出会ってから今までを、端的に思い返した――。

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