クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない

第一章 恋が苦手なふたり

 まだまだ肌寒い、三月上旬。南から吹いてくる海風が、今日も冷たい。

 私はいつものようにコートの前を抱えて歩き、仕事へ向かっていた。
 だが、胸は高鳴っている。鞄に忍ばせている、売場改変案のせいだ。

(ついに今日から本格始動。スタッフたちにも伝わるし、頑張らないと)

 日々の店長業務に加え、四か月で売場改変の準備をしなくてはならない。それでも、夢である本部勤務への第一歩だ。
 絶対に成功させようと意気込む。

 今日は智田SVと実際に売場を見ながら、改変の詳細を決めていく予定だ。
 売場を回りながら彼と話し合う様子を脳裏に思い浮かべる。
 すると、突然智田SVが躓いた。立ち上がった彼が、真っ赤な顔をこちらに向ける。

(ん~~~~っ!)

 つい悶えてしまった。昨日のあの事件のせいだ。

 普段はクールな彼からは想像もつかない、ドジな一面。とっつきにくい印象のある彼の、焦って頬を染めた姿。
 脳裏でバッチリと再生されてしまい、胸が別の意味で高鳴りはじめる。

 私は異性の〝ギャップ〟に弱いらしい。かつての恋もそうだった。

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