捨てられ仮面令嬢の純真

離ればなれの日々

  ✻ ✻ ✻

 愛する人と離れるのは、これほど不安なものなのか。
 レオが出立する朝、セレスは小刻みなふるえがとまらずに困り果てていた。安心して旅立ってほしいのに、妻として情けなくて泣きたくなる。

 昨夜は名残を惜しむように優しく優しくセレスを包んでくれたレオ。刻み付けるような強さはなく、とにかくセレスを愛していると伝える仕草だった。そういう人だからこそセレスは恋をしていて――本当はどこにも行かないでほしい。

「セレス――」

 玄関でレオは妻を抱きしめる。そしてそっと唇をついばんだ。いつも人前ではそんなことしないのに。

「心配ない。すぐに片づけてくるからな」
「――はい。行ってらっしゃいませ」

 精いっぱい気丈に、セレスは笑ってみせた。
 これからレオは王宮へ行き、出陣の宣誓をする。そして王宮前広場に集まった部隊とともに街道を征くのだ。マルロワ王国を守るために。

「じゃあ」

 軽い言葉でレオは歩き出す。門まで送りに出たセレスは、その背中が角を曲がって消えるまで見送った。

「――私は、私にできることをしなくちゃ」

 泣きたいのをこらえてセレスは決意した。夫が国のために戦っている時に、セレスは館で気をもんでいるだけだった――なんて帰ってきたレオに報告できない。
 レオが凱旋する時に王都がより良くなっているためには、どうすれば。セレスは思いをめぐらせた。


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