捨てられ仮面令嬢の純真

セレスの勇気

  ✻ ✻ ✻


「どうして出てきたんだい!?」

 執務室からすっ飛んで出てきたマティアスは、控えの間に義妹の姿を確認して目まいを感じた。無鉄砲な女性ではないと思っていたのだが何をしに来たのか。
 セレスの椅子の脇にはひっそりと執事ダニエルだけが控えている。孤児院からセレスを守りながら共に来た下男たちはさすがに帰らせたのだ。
 立ち上がったセレスは義兄に対して美しく一礼した。

「こんな時に申し訳ありませんけれど、陛下にお会いしたく参りました」
「陛下……? いや、そんな。君は」
「ご心配なさらないで。私、もうあの方の振る舞いに傷つくのはやめました。だって私、レオさまの妻ですもの」

 セレスの声は落ち着いている。その凛とした佇まいにマティアスは目を見張った。
 ――リュシアンに会わせることは、できる。側近のマティアスならば。だがさすがに目的を知らずには伴えない。

「……何を奏上するのかな?」
「あれこれと。あらためていただかなければ民が救われません」
「それは理解するよ。でも……きっと受け入れてはもらえない」
「諦めないでくださいませ、お義兄さま。ご存知でしょう、小さな子が飢えていたことを。家々が盗みに入られているのは知っていらっしゃいますか。私の知る孤児院に、たくさんの人が逃げてきているのです。騎士団も警ら隊も頑張っているのはわかります。でももう……元を正すしか」

 いつになく饒舌なセレスの勢いにマティアスは驚いた。キリリと前を向く瞳に宿る力に圧倒される。

(ああ……セレスティーヌは腹をくくったのだな。民を守り導くために)

 ふ、とマティアスは笑った。それはマティアスの望むところ。ならば義兄として応えるしかあるまい。

「――わかった、じゃあ行こうか。ただし私も同席するよ、腕力では陛下が勝つだろうからね」
「心強く思います。お願いいたします」

 怒りにまかせて暴力を振るうかもしれない相手なのは否定せず、セレスはうなずいた。


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