捨てられ仮面令嬢の純真
陰謀とデート
✻ ✻ ✻
名実ともに国王となったリュシアンは、マルロワを訪問中の各国要人と順に会談をこなしていた。ただし、後ろに宰相ラヴォー公爵と補佐官マティアスを伴ってだ。何か失言をされては困る。
今向き合っているのは、隣国ビルウェン王国よりの使節だった。
「隣国の慶事に立ち会うことができ、喜ばしく思います。我がビルウェン王国ともいっそうの友誼を深めるよう求めたい、との言葉を預かって参りました」
「うむ。それはマルロワの、そして私の願いでもある。大義であった、ハーラルト卿」
謁見の間に現れたビルウェン王国の一行は、正使ハーラルト卿以下全員が重々しい礼服に身を包んでいる。だがその末席に恭しくおさまる中年男一人だけは雰囲気が違う、とマティアスはひそかに注視した。
この男、実は先だって町をうろついていた商人のギードだ。式典よりずいぶん前からマルロワに潜入し、国情を探っている。
それが今日、ハーラルト卿にくっついて王宮へ乗り込んできた。ギードがわざわざ使節団にまぎれたのは、マルロワ宮廷の空気を知り――そしてマティアスの為人を見極めるためだ。
マティアスは現在、王位継承権第一位に繰り上がった重要人物となっている。リュシアンにマルロワを統治させておくよりマシだと思えれば後押しを惜しまない、というのがビルウェンの思惑だった。それはつまり、王位簒奪をそそのかすという意味なのだが。
「我が国とビルウェンの国境において――」
リュシアンはつまらなそうに口を開いた。
「貴国の民が不法を為していると報告が上がっているが」
「聞き及んでおります」
申し訳なさそうにしてみせたのは正使ハーラルト卿だった。が、議題になる事柄については事前にマティアスと使節団とで折衝済み。答弁は形式的なものだ。
「その地方におきましては昨年、特産の品が不作でございました。困窮した民の暴挙をお詫び申し上げる。領民を救う施策を行うとお約束しましょう」
「早急に願いたい。マルロワの民を守るのが王たる私の務めだ」
もっともらしくリュシアンはうなずいてみせた。
名実ともに国王となったリュシアンは、マルロワを訪問中の各国要人と順に会談をこなしていた。ただし、後ろに宰相ラヴォー公爵と補佐官マティアスを伴ってだ。何か失言をされては困る。
今向き合っているのは、隣国ビルウェン王国よりの使節だった。
「隣国の慶事に立ち会うことができ、喜ばしく思います。我がビルウェン王国ともいっそうの友誼を深めるよう求めたい、との言葉を預かって参りました」
「うむ。それはマルロワの、そして私の願いでもある。大義であった、ハーラルト卿」
謁見の間に現れたビルウェン王国の一行は、正使ハーラルト卿以下全員が重々しい礼服に身を包んでいる。だがその末席に恭しくおさまる中年男一人だけは雰囲気が違う、とマティアスはひそかに注視した。
この男、実は先だって町をうろついていた商人のギードだ。式典よりずいぶん前からマルロワに潜入し、国情を探っている。
それが今日、ハーラルト卿にくっついて王宮へ乗り込んできた。ギードがわざわざ使節団にまぎれたのは、マルロワ宮廷の空気を知り――そしてマティアスの為人を見極めるためだ。
マティアスは現在、王位継承権第一位に繰り上がった重要人物となっている。リュシアンにマルロワを統治させておくよりマシだと思えれば後押しを惜しまない、というのがビルウェンの思惑だった。それはつまり、王位簒奪をそそのかすという意味なのだが。
「我が国とビルウェンの国境において――」
リュシアンはつまらなそうに口を開いた。
「貴国の民が不法を為していると報告が上がっているが」
「聞き及んでおります」
申し訳なさそうにしてみせたのは正使ハーラルト卿だった。が、議題になる事柄については事前にマティアスと使節団とで折衝済み。答弁は形式的なものだ。
「その地方におきましては昨年、特産の品が不作でございました。困窮した民の暴挙をお詫び申し上げる。領民を救う施策を行うとお約束しましょう」
「早急に願いたい。マルロワの民を守るのが王たる私の務めだ」
もっともらしくリュシアンはうなずいてみせた。