捨てられ仮面令嬢の純真

王座を揺るがすために

  ✻ ✻ ✻

「レオ、非番のくせに泥棒を捕まえたんだって?」

 出仕したレオを笑ってどついたのはウスターシュだった。騎士団による市中巡回は形式的な面もあるが、実働を担う警ら隊との情報共有はなされている。そちらから話が聞こえたのだろう。

「奥方を連れてたって、デートだったんだろ。なんで下町に」
「セレスティーヌが行きたがったんだ。人々の暮らしを知りたいと」
「……やっぱ彼女、王妃サマになった方がよかったんじゃないか?」

 ウスターシュはコソッとささやいた。のほほんとしたウスターシュからもそんな言葉が出て、レオはがっくりする。それほどにミレイユの我がままは評判が悪いのだった。
 産まれてくる子のための部屋をミレイユの言ったとおり改装したのに「やっぱり気に入らない」とやり直させる。マティアスがなだめすかして執務させているリュシアンのところに「私を放ったらかすの?」と甘えにいく。「侍女が気に入らないことをした」とすぐクビにする。
 そんなこと、セレスが王妃になっていればなかったはずだ。王宮の使用人たちからため息とともに「セレスティーヌ王妃待望論」がささやかれていると聞き、レオは頭が痛い。
 
「うちの妻はどこにもやらん」
「あはは、わかってるけどさあ。皆が困ってるんだよねー」

 困っていると言われても、レオだってセレスをゆずるわけにはいかなかった。長年焦がれてやっと手に入れた愛妻なのだ。
 セレスは絶対にレオ自身の手で幸せにする。そう決めていた。



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