捨てられ仮面令嬢の純真

おろかな王妃と国境の不穏

  ✻ ✻ ✻

 冬の寒さが厳しくなってきた頃、セレスは王宮を訪れた。
 一緒にいるのはレオではなく、実の父ヴァリエ侯爵。表向きの訪問理由は、妊娠中の妹のご機嫌うかがいとなっている。

「……ミレイユに難しいことを言うのは感心せんのだが」

 ヴァリエ侯爵はこの期に及んでブツブツ文句を言った。セレスが要請した面会を仕方なくセッティングしたくせに往生際が悪い。

「ミレイユのためだと申し上げましたでしょう、お父さま。あの子が王妃のつとめを果たさなければ、外戚としてのお父さまの立場も危うくなります」
「しかし懐妊中でもあるしな」
「今は安定している時期だと聞きましたけど。調子が悪いのですか? 王妃の立場なのだから、人を使えばいいのです」

 セレスにピシリと言い返され侯爵は不機嫌に黙った。国王夫妻の評判が悪いのは知っているが、ミレイユにそれを言うと怒るから嫌なのだった。
 自分より上の立場になった娘を、父は扱いかねているらしい。セレスはため息をかみ殺した。ミレイユを甘やかして我がままに育てたのは、父なのに。


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