ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第36話 過去の亡霊1

「お義父様をやり込める? でもどうやって……?」
「わたくしにいい考えがあるの」

 心配そうなエリーゼを説得して、アンドレアは秘密裏にケラー侯爵家に移動した。
 生まれ育った屋敷なので迷うことはない。
 侍女に扮装してある部屋に入り込む。
 ここはポールに嫁いだあとも、そのままにしてもらっていたアンドレアの部屋だ。

「昔のドレスを残しておいてよかったわ」

 令嬢時代に好んで着ていた服を選び取る。
 最後にアンドレアは母の形見のネックレスを大事に首に下げた。

(ローデリカお母様、どうかわたくしに力を貸して……)

 亡き母に祈りを捧げ、アンドレアは時を待った。


 ♱ ♱ ♱


「お義父様、今日はお食事をご一緒できてうれしいですわ」
「ああ、エリーゼとは久しぶりだな。(せがれ)はどうした?」
「また紳士クラブですわ。その暇があったら、我が子との時間を取ってもらいたいのですけれど」
「あれは男の社交に大切な場だ。女ごときには分かるまいがな」

 不満そうに言ったエリーゼに、ケラー侯爵は冷笑を浮かべた。
 こんな言動はいつものことなので、エリーゼはおっとりとした笑みだけを返した。

 それぞれがカトラリーの並べられた席に着く。
 そこでケラー侯爵は、もうひとつあった空席に目を止めた。
 そこにもテーブルセッティングがされている。

「まだ誰か来るのか?」
「あれはアンドレアの席ですわ」
「アンドレアの?」
「お忘れになったのですか? 今日はアンドレアの誕生日ですのよ?」

 ケラー侯爵の眉間にしわが寄る。
 エリーゼは構わず、壁際に控えていた侍女に声をかけた。

「ではマリー、お願いね」
「かしこまりました」

 侍女のマリーがワゴンを押して食前酒と前菜を運んでくる。
 アンドレアの席も含めて、マリーは三人分配膳していった。

「お義父様……わたくし、アンドレアが死んだなんてまだ信じられませんの。それに……」

 食前酒のグラスの中身を回して、エリーゼは小さくため息をこぼした。

「マリーから聞きましたわ。アンドレアがシュナイダー家でどんな目にあっていたのかを」
「そんな話は今しても意味などないだろう」
「ですが、アンドレアの無念を思うと……何度も会いに行ったのに、わたくし何も気づけなくって……それが悔しいのですわ」
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