ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第42話 反乱

 引き金は橋の崩落だった。
 多くの死傷者を出し、交通が分断された市街地では食糧や医薬品などの物流も途絶えてしまった。
 怒りの矛先が真っ先に領主に向けられたのは当然のことだ。

 短期間であり得ない重税をかけられ、改善が必要なインフラは整備されることなく放置され続けていた。
 領民にひとつも還元されない税金は、領主がすべて愛人につぎ込んでいるらしい。
 そんな噂が立ち始めたころに起きたのがこの崩落事故だった。

 シュナイダー家の門前は、決起した領民で埋め尽くされている。
 精鋭を謳う護衛たちだとしても、数で勝る領民を押さえ切ることなど不可能だ。

「正門が打ち破られた模様です! 領民たちが敷地内になだれ込んできております!」
「くっ、こうなったら一時非難を……」
「裏門も取り囲まれております。もはや屋敷から出ることも難しい状況です!」

 屋敷中から怒号が響き、物が壊れる音とともに逃げ惑う使用人たちの悲鳴が耳に届いて来る。

「旦那様、どうか次のご指示を!」
「おい! こんなときに家令の奴はどこへ行った……!」

 言ったあとにはっとする。
 家令は先日解雇を言い渡したばかりだ。

「くっ、いいからお前たちは俺の盾になれ! いいか、死んでも俺を守るんだぞ!!」
「そ、そんな……!」
「口答えをするな!」
「ひぃっ、お許しをっ」

 震えあがった使用人に物を投げつける。
 そこに半泣きのライラが駆け込んできた。

「ポール、これは一体どういうことなのっ」
「ライラか。ちょうどいい、お前も俺の盾になれ」
「たて? どういうこと……? ポールはライラを守ってくれるのよね?」
「うるさい! お前の代わりならいくらでもいるが、俺はこの世にただ一人しかいないんだぞ」
「そんな、ひどいわ! ポールはライラのこと愛してないの!?」
「ライラこそ、俺を愛しているのなら俺のために喜んで死ねるよな?」

 怯えた顔でライラが一歩後ずさった。
 その背後からこれまでで一番の爆発音が轟いた。

「きゃあっ」
「旦那様! もう民衆を止めきれません……!」
「くそっ、どうしてこの俺がこんな目に! いいからお前たちは全員俺の盾になれっ」

 最も手前にいたライラを扉に向けて突き飛ばす。
 ぶつかった使用人共々、廊下の方へ転げ出た。

「領主はここか!」
「捕まえて血祭りに挙げろ!!」
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