ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第6話 おかしいと思った

 里帰りしたケラー侯爵家で、アンドレアは義姉のエリーゼに快く迎えられた。
 行くにあたってポールに何か嫌味でも言われるかと思ったが、反応ひとつ帰って来なかった。
 ケラー侯爵は味方と安心しきっているのか、アンドレアには一切興味がないのか。
 そのどちらかに思えたが、きっと両方とも当たっているに違いない。

(もしかしたら、わたくしが出かけたことにすら気づいていない可能性もあるわね)

 アンドレアに仕事を押し付けるのは相変わらずで、ずっとライラと遊び惚けているポールだった。

「まぁ、なんてこと。そんなとんでもないことになっていただなんて」
「ごめんなさい。エリーゼも大事な時期なのにこんな話をもってきてしまって……」
「いいのよ。可愛い義妹の一大事ですもの」

 おっとりと微笑んだエリーザはふたり目の子供を身籠っている。
 臨月を迎えたお腹を、ふわりとしたドレスの下に隠していた。

「でも、おかしいと思っていたのよ」
「おかしいって、何が?」
「ポール様ってアンドレアに苦手意識を持ってらしたでしょう? それを文句も言わずに大人しく妻に迎え入れたじゃない?」
「確かに……」

 幼少の折からずっと優秀なアンドレアと比べられてきたポールだ。
 その反動か、ポールはライラのような従順で持ち上げてくれる女性が好みのようだ。
 彼の性格を考えると、家のための政略結婚よりも自分の我がままを優先しそうなものだった。

「でも伯父様が亡くなられたばかりで、さすがのポールも気が弱くなっていたのではないかしら?」
「そうね。そこはお義父様が上手く立ち回られたのかもしれないわね」

 先代シュナイダー公爵が急逝したとき、多くの貴族が懐に入り込む隙を窺っていたはずだ。
 亡き妻が公爵の妹だったこともあり、ケラー侯爵はいち早くポールに取り入ることができたのだろう。

「とにかく見過ごせない状況ね」
「だけどもうどうにもならないわ。悔しいけど、黙って従うしかできないもの」
「あら、珍しく弱気ね?」
「だってポールに分があり過ぎでしょう?」
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