ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第45話 奉仕と献身

「シュナイダー領で領民による反乱が?」
「ああ、領民の生活は相当ひどいことになっていたらしい。それでポールとライラが王立軍に捕らえられたそうだ」

 エドガーの言葉に、アンドレアは我が子を抱く腕に無意識のまま力を入れた。

「ライラの子は? 無事でいるの?」
「反乱が起こる直前に国に保護されたようだ」
「そう、よかった……」

 子供には罪はないからと、アンドレアはほっと息をついた。
 しかし事前に保護を受けたとなると、シュナイダー領で反乱が起こることを祖父は察知してたということだろう。

「わたくしが領地経営を放棄しなければ……」

 反乱を起こさねばならないほどに、シュナイダー領は悲惨な状況だったのだ。
 領民の苦を思うと、アンドレアは強い罪悪感に苛まれた。

「それはアンドレアが負うべきものじゃない」
「でも……」
「今回起きたことは領主であるポールの責任問題だ。それにそもそもアンドレアがシュナイダー領に関わったのはケラー侯爵の計略だろう?」

 そう言われても、後ろめたさを完全に消すことはできなかった。
 あのままアンドレアが持ちこたえていれば、領民の間で余計な血が流れることはなかったはずだ。

「アンドレアは母親として、この子を守るためにやるべきことをした。違うか?」
「ええ……そうね、エドガー」

 今あの時に戻っても、アンドレアは同じ選択をしただろう。
 腕の中ですやすやと眠る天使が、愛しく思えて仕方がなかった。

「言っておくがアンドレア。アンドレアがシュナイダー家でやっていたことは、奉仕ではなく献身だ」
「奉仕と献身の何が違うと言うの?」

 どちらも似たような意味だろうに。
 エドガーの真意が掴めず、アンドレアは小首をかしげた。

「献身は身を削って相手に差し出すことだ。それに対して奉仕とは、心から相手の幸せを願い自発的に行う行為だと俺は思っている」
「なるほど……その捉え方も一理あるわね」

 アンドレアは神妙に頷き返す。
 いつか祖父に言われた言葉と、どこかリンクしいるようにも思えた。

「ま、簡単に言えば、献身は義務や強制でやらされている自己犠牲、奉仕はやってあげたくてたまらない溢れ出る愛って感じだな」
「溢れ出る愛……」
「なんだ?」
「だってエドガーの口からそんな言葉が出て来るなんて」
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