ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第9話 予期せぬ再会

 集中しようと思っても、夕べのふたりの会話が頭を離れない。
 幾度目かの書き損じに、ペン先を止めたアンドレアは大きく息をついた。

(結局ほとんど眠れなかったし……)

 寝不足も重なって、先ほどからミスを連発してしまっている。
 そんなアンドレアにシュナイダー家の家令が気づかわしげに声をかけた。

「奥様、一度ご休憩をなさっては?」
「そうね……少しの間、任せてもいいかしら?」

 そう言って席を立つ。
 気分転換のために執務室を出かかって、結局アンドレアは応接用のソファに身を沈めた。
 またライラに出くわしたらと思うとどうしようもなく気が滅入る。

(こんなわたくし、なんだか嫌だわ)

 なぜ自分がこんなふうにこそこそしなくてはならないのか。

(お母様……)

 こんなとき、母だったらどんな振る舞いをするだろうか。
 凛として立つ、母の姿が脳裏に浮かぶ。
 王女として生まれ育った母は自信に溢れ、どんなときも決して揺らがない人だった。

 寝ないで書いた祖父宛の手紙は、今朝早くに王城へと届けさせた。内容は見舞いに行きたいとだけしたためてある。
 祖父は病床に就いていることもあり、あまり返事は期待しない方がいいかもしれない。
 それでも何もせずに手をこまねいていたら、アンドレアはこのままふたりの操り人形になってしまう。

 無意識に大きくため息をついた。
 そんなとき困り顔の使用人がひとり、恐る恐る近づいて来た。書類を手に、何やら声がけをためらっている。
 仕方なくアンドレアはその男に視線を向けた。
 不機嫌な自分のそばに寄って来るくらいだ。火急の案件でも持ってきたのだろう。

「なにか急ぎがあって?」
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