ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第18話 狼煙を上げて

 反撃を胸に誓った翌日、エリーゼの体調が良くないと知らせが来た。
 なんでも産後の肥立ちが悪く、かなり危険な状態らしい。

(この前会ったときはあんなに元気そうだったのに……)

 アンドレアは急遽、ケラー侯爵家へと向かった。
 移動中の馬車の中、ずっと手の震えが止められない。
 侍女のマリーは怪我がまだ癒えていないため、例の見張り役の侍女が付き添っていた。
 エリーゼのために祈ることしかできないアンドレアを、見張りの侍女は始終痛ましそうに眺めている。

 ケラー家に到着し、すぐにエリーゼの元に駆け付けた。
 力なく横たわるエリーゼは、高熱でもあるのか真っ赤な顔で玉のような汗をかいている。

「恐らくこの数日が峠かと……」

 沈痛な面持ちで医師が言うと、使用人たちから嗚咽が漏れだした。
 信じたくない気持ちで、アンドレアは枕元まで歩み寄った。

「うれしい。来てくれたのね、アンドレア……」

 弱々しく延ばされた手を、アンドレアはぎゅっと握りしめる。
 息も絶え絶えに、エリーゼは声を搾り出した。

「最期にふたりきりで話したいの……おねがい……人払いを……」

 その言葉に、アンドレア以外の人間がひとり残らず退出していく。
 ふたりきりになった寝室で、アンドレアは必死に涙を(こら)えようとした。

「ふぅ、よっこらしょっと」

 突然エリーゼが軽快に起き上がる。
 あまりに身軽な動きに、驚いたアンドレアの涙が一瞬でひっこんだ。

「え、エリーゼ、起きたりして大丈夫なの?」
「仮病よ、け・びょ・う」

 満面の笑みでウィンクを飛ばされて、アンドレアはぽかんとなった。

「だってこうでもしないと、アンドレアは身動き取れないんじゃないかと思って」
「じゃあ、エリーゼはどこも悪くないの……?」
「ええ、わたくしはいたって健康よ」

 安堵のあまり、アンドレアの体から力が抜ける。
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