ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第20話 最初で最後の

 エリーゼの寝室の奥にあった扉をくぐる。
 そこは替えのリネンや衣類が置かれた物置部屋で、そのさらに奥にもうひとつ扉があった。
 あの向こうでエドガーが待っている。
 ノックする前に一度深呼吸をしてから、アンドレアは緊張気味に扉を開けた。

「来たわ、エドガー」
「ああ」

 素っ気なく言ったエドガーは、ゆっくりと立ち上がる。
 見覚えのある室内を見回していると、アンドレアはエドガーに手を取られた。

「ここはこの前話をした……?」

 今いるのは、前回エドガーと言葉を交わした乳母用の小部屋だった。
 だとするとさらに進んだ向こう側は、赤ん坊のいる子供部屋なのだろう。

「エリーゼに頼んで子供は別の部屋に移してもらった」
「そう……なら安心ね」

 こうしてふたりきりで会っていることは、エリーゼしか知らないことだ。
 このことは見張り役の侍女にも、ケラー家の使用人にも、誰ひとりとして見られてはならなかった。

(こんなとき、何を話せばいいのかしら……)

 気まずい沈黙の中、アンドレアはなんとか言葉を探そうとした。
 そもそも昔はエドガーとどんな会話をしていただろうか。
 婚約の期間はそれなりに長かったはずだ。
 記憶の中のエドガーはいつも素っ気なくて、たまに会ったときはアンドレアばかりがしゃべっていたように思う。

 考え込んでいたら、エドガーに後ろから抱きすくめられた。
 身を固くしたアンドレアの耳元に、エドガーの吐息がかかる。

「あまり時間は取れないんだろう?」

 巻き付けられた腕にそっと手を添えて、アンドレアは小さく頷き返した。
 アンドレアは今エリーゼの寝室にいることになっている。
 あまり長い時間ここに籠っていては、監視役の侍女が怪しむだろう。
 一応その対策は取ってあるが、万が一ということも考えられた。

「アンドレア……」
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