ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第23話 ホオズキの茶

 医師の定期健診を受けていると、乱雑に扉が開け放たれた。

「ポール様、今は診察中ですぞ」

 窘めるように言われるも、ポールはずかずかと中に踏み込んでくる。
 アンドレアを睨みつけてから、棘のある言葉を医師へと放った。

「いいから経過を話せ。アンドレアの妊娠は虚偽ではないのだな?」
「それはもちろん。ご安心ください、お腹のお子は順調にお育ちです」

 あからさまに不快な表情となったポールに、医師が分からないと言った顔をした。

「腹の子の父親を確かめる方法はないのか?」
「それは……生まれたお子の目や髪の色で、ある程度は……」
「ポール、あなたまだそんなことを言っているの?」

 舌打ちをしたポールに、アンドレアはわざと大袈裟に呆れてみせた。
 医師の目もアンドレアに同情的だ。ポールの非常識さは屋敷内では当然のことのように知れ渡っていた。

「生まれてきた赤子が、俺と似ても似つかなかったら……そのときはどうなるか覚えておけよ」
「まぁ、怖い」

 軽くあしらって、冗談のように受け流した。
 エドガーの祖母は元王族で、エドガー自身も王位継承権七位に位置している。
 血筋としてはポールと親戚関係にあるので、ふたりの容姿はさほどかけ離れてはいなかった。

「ちっ、俺はまだ認めていないからな」
「何を言っているのよ。わたくしの懐妊については、もうとっくに国へ報告したじゃない」
「そんな報告をした覚えはない!」
「だったら確かめてみるといいわ。ポール・シュナイダー公爵のサインが入った書類が、国王宛に送られたことを」

 祖父個人宛ではなく、シュナイダー公爵家が正式な公文書として国王に向けて提出したものだ。
 アンドレアは領地経営にまつわる書類の中に、その書類も紛れ込ませておいた。
 案の定、ポールは中身も見ないでサインした。

「なんだと!? また俺を謀ったのかっ」
「謀るだなんて……ポール、あなたはいつも内容の確認もせず、書類にサインをしているの?」
「う、うるさい! い、い、い、今に見ていろよ……!」

 言い返す言葉が見つからなかったのか、陳腐な捨て台詞を残してポールは去って行った。
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