ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第25話 父の本性

「ケラー侯爵、ライラ嬢をお借りしに上がりましたよ」

 屋敷のエントランスでエドガー・シュミットがにこやかに立っている。
 長いことライラを放っておいたエドガーが、ここにきて積極的にライラを連れ出しに来ることに苛立ちを覚えた。

「生憎だが、ライラは体調が悪いようだ。誘うのはまた後日にしてもらえないか?」
「それはいけませんね。ライラ嬢にはゆっくりと休むようお伝えください」

 さほど残念そうでもなく、エドガーは手にしていた花束を使用人に託した。
 アンドレアと婚約していたときは、こんなにもマメな男ではなかったと記憶している。
 身を固めず遊んでいたい男は一定数いるものだ。
 ここ数年の様子を見て、エドガーもそのタイプだと安心していたのだが。

(もうしばらく遊び暮らしていてくれればよかったものを)

 ライラにはまだポール・シュナイダーを繋ぎ止めておいてもらわねばならない。
 アンドレアの腹の子が今後どうなるかは不透明だ。
 それがはっきりするまでは、ライラをエドガーの元に嫁がせるわけにはいかなかった。

「それはそうと、エドガー。君は手広く事業を展開しているようだな。(せがれ)からケラー家ゆかりの商会も痛い目にあっていると聞いたのだが?」
「これは飛んだ失礼を! こちらの調査不足でした。ライラ嬢を妻に迎えるために、もっと稼ごうと張り切り過ぎましたかね!」

 快活に笑ったエドガーを前に、ケラー侯爵は益々苛立ちを募らせた。
 この男はこちらの思惑をひょいとくぐり抜けてくる。
 飄々としてどこか掴めない性格に、難儀しているケラー侯爵だった。
 ようやくエドガーを追い返すと、陰でやり取りを見ていたライラが姿を現した。

「やっと帰ったのね。ほんと鬱陶しいったら! ねぇ、お父様。わたし、あんなお姉様のお下がりなんかと結婚したくないわ」
「今しばらく辛抱してくれ」
「もう、そればっかり! わたしは早くポールの元に帰りたいのに!」
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