ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第28話 これからも犠牲になれ

 あの夜から、ポールの態度が軟化した。
 妊娠しているからといって領地の仕事は手を抜くな。
 そのくらいのことは言われたが、お腹の子を否定するような言動はしなくなった。
 ライラもアンドレアの前に一度も姿を見せることなく、表向きは平穏な日々が続いている。
 しかしアンドレアは心中穏やかでいられなかった。

 ――ライラが懐妊したらしい。

 二重スパイをさせている侍女のヘレナからその知らせを受けたときは、アンドレアの不安は最高潮に達してしまった。
 この静けさの影で、ポールたちの悪魔の計画は着々と進んでいる。
 そう思っただけで、恐ろしさのあまり碌に夜も眠れなかった。

(この子を守り切るために一体どうすれば……)

 産後間もない自分はどれほど動き回れるだろうか。
 ライラの出産は恐らくアンドレアよりも二月(ふたつき)三月(みつき)は遅くなるはずだ。
 祖父に頼んで、赤子の警備を強めてもらおうか。
 それでも金で動く裏切者が出てくる可能性もある。
 考えれば考えるほど、恐怖の深みはまっていった。

「アンドレア様……少しはお食べにならないと……」

 日々やつれていくアンドレアの事情を知るのは、侍女のマリーだけだ。

「そうね、マリー。わたくし、母親失格ね」
「そのようなことは……」

 出産は命懸けの大仕事だ。
 子供が無事に生まれたとしても、アンドレアに万が一のことが起こる可能性もある。

(もしこの子がひとり遺されたら、それこそポールたちの思う壺になってしまうわ……)
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