ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第5話 仕組まれた偽装結婚

「こんな話、あんまりです!」

 夜遅くに鏡台の前に座り、アンドレアは侍女のマリーに髪をとかれていた。

「普通はそう思うわよね……」
「ええ、ええ、そうですとも! アンドレア様があんまりにもお可哀そうですっ」

 マリーはアンドレアが子供のころからの侍女で、シュナイダー家に嫁ぐときに一緒についてきた数少ない理解者だ。

「ライラ様は昔からわがままでいらっしゃいましたけど、まさかここまでとは……婚姻後のポール様の態度もずっとどうかしてましたし、その上旦那様までグルだったなんて……!」
「そうよねぇ、普通はそう思うわよねぇ……」

 どこか他人事のようにつぶやいた。
 ある程度心を麻痺しておかないと、アンドレアの精神がどうにかなってしまいそうだ。

「あまりの非常識に呆れ果てて、このマリー、開いた口が塞がりませんっ」
「その割にはよく動く口ね」
「す、すみません! わたしったら調子に乗ってっ」
「いいのよ。わたくしを心配してくれているのでしょう? ありがとう、マリー」

 マリーに当たっていても仕方ない。
 これからどうしたものかとアンドレアは物憂げにため息をついた。

「わたくしこそ、調子に乗り過ぎたのがいけなかったのよね……」
「そんなことありません! アンドレア様は完全に被害者です!!」
「でも、わたくしが領地の仕事を引き受けさえしなければ、今ごろは離縁されて自由の身になっていたのではないかしら?」
「それはそうかもしれませんが……そ、そもそも離婚が前提で偽装結婚を企てるだなんて、アンドレア様を馬鹿にし過ぎです!」

 マリーは顔を真っ赤にして涙目になっている。
 酸欠で今にも倒れ込みそうな剣幕を見て、かえってアンドレアは冷静になった。
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