ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第32話 アンドレアの死

「一体どういうことだっ」

 乱暴にドアが開け放たれて、険しい顔のポールがずかずかと奥まで入ってきた。
 天蓋がかけられた寝台、脇に立つふたりの侍女、湯の張られた桶に、そこからはみ出す赤く染まった生成の布。
 視線が順に移動して、最後にポールは枕元に立つ医師に目を止めた。
 鋭い視線で睨みつけられると、老齢の医師は沈痛な顔で静かに首を横に振った。

「最善は尽くしましたが、奥様はお腹のお子共々……先ほどおしるしがありまして、その後はあっと言う間のことでした……」

 言い終わる前に、マリーが寝台に縋りついた。

「あああっ、アンドレア様! なぜ……なぜ、このような……アンドレア様、アンドレア様ぁっ」

 号泣するマリーが、血の気の失せたアンドレアの手を握り締める。
 脇にいたヘレナもつられるように嗚咽を漏らし始めた。
 その光景を前にして、ポールは口元をわなわなと震わせた。

「ふざけるなよ、アンドレア……! これからの領地経営は一体誰にやらせろというのだ!」

 激昂して吐き捨てる。
 続けて舌打ちしたポールは、来たとき同様乱暴な足取りで部屋を出て行ってしまった。

「うっう……」

 口元に手を当てながら、ヘレナが開け放たれたドアに歩み寄る。
 きょろきょろと向こうを窺って、そうっとヘレナは扉を閉めた。
 再び戻った寝台では、床に崩れ落ちたマリーが未だすすり泣いている。

「ああっ、お(いたわ)しや、アンドレア様……!」
「マリーさん。旦那様、もう行っちゃいましたよ?」

 背中からヘレナに話しかけられて、ぴたっと泣くのをやめたマリーはすぐに体を起こした。
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