執拗に愛されて、愛して
Prologue
「ダメだ、疲れた。」


 華の金曜日ではあったが、最近残業続きでもう枯れ木の様な姿になってしまっていた。大企業の広報部で勤務している私は、朝比奈(あさひな) 夏帆(かほ)、26歳。

 忙しい時期を抜けて残業も今日で目途が立ちそうな週末で、明日は休みだからどこかでお酒を飲んでから帰ろうなんて考えていた。飲むと言っても特定の店など決まっておらず、辺りを見渡して入る店を探していた。

 そんな時、何気無しにふと路地裏に目をやり、男女が濃厚なキスを交わしているのをたまたま見てしまった。隠すつもりは無いのか、むしろ見せつけている様なそんな感じがした。


(やってらんないわ、本当。)


 疲れきった身体にあんなのは毒。と、目線をすぐ他に移したが、よくよく考えるとどこか違和感があった。この違和感が何なのか考えても、すぐには思いつかない。


(男側、見覚えある顔だった⋯?いや、気の所為。私の知り合いにあんなのいないし。)


 知っていたとしても厄介事に巻き込まれたくないし、気付かないふりをしてそのままたまたま目に付いた近くのバーにフラッと入った。
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