執拗に愛されて、愛して
9 Ordeal
 いろいろなことが落ち着いて平和的な生活になったと思えば、試練というのはすぐにやってくるものだ。


「は、転勤ですか?」


 朝一で部長から呼ばれ、昇格の件とそれにあたり支社の方でしばらく勤務しないかという話をされた。本社の人間はそれなりに上の立場に昇格する際には支社に勤務してみて、場を回して問題がなければようやく本社で昇格となる。

 女性でこの手の話を受けている方はそんなに多くなくてすごく名誉なお話であることは間違いがなかった。


「うん。期待しているし朝比奈さんにはぜひ行ってほしいのだけどどうかな。」


 これが昨年もらっていた話なら迷いもなく受けていたと思う。何よりも仕事が大事だったし、この話が来ることをいつか夢すら見ていた。

 だけど、すぐに頭に浮かんだのは雅の事で、行きますと即答できなくなっていた。


「…これは、強制ですか?」

「朝比奈さん次第だよ。昇進にこだわらないなら無理に行かなくてもいい。」


 きっと断れば上の期待を裏切る形になる。でも受けたら、雅と2度目の遠距離恋愛…。前回遠距離で失敗しているのに、2度目はうまくいくなんて思えない。昨年は1年で限界だったのに、今回は1年から2年、へたしたらそれ以上の期間が必要になる。
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