執拗に愛されて、愛して
14 Happiness
「黒崎さーん。」

「はい?」


 黒崎と呼ばれたのは雅ではなく、私。ついこの間まで朝比奈 夏帆だったはずの女である。最初こそ慣れなかったこの名前だけど今では自然と反応できるようになってきた。

 あの後すぐに結婚指輪を買いに行って、完成して取りに行ったタイミングで籍を入れた。左手の薬指にはまたお揃いが増えていて、仕事中の今も眩しく輝いている。

 籍を入れるまでの間にうちの両親への報告、雅のお母様に挨拶。それと、玲くんや会社への報告と、ようやく落ち着いて来て今だった。


「部長からこの間お願いしていた件来週までに上げてほしいと伝言頼まれていて、もし無理そうなら内線でもメールでも良いから相談の連絡が欲しいと言ってました。」

「わかりました。」

「それと、黒崎さんって名前呼ばれるのようやく慣れましたね。」


 女性社員にもそう言われて苦笑いする。呼ぶ方も呼ばれる方も慣れが必要で、他の取引先にも名前が変わったご挨拶などで何度も黒崎という名前を使って、ようやく慣れたものだ。

 会社内はまだ慣れていなくて私を朝比奈と呼ぶ人もまだいる。

 前まで離れていなさすぎて、黒崎と呼ばれても無視を決める感じの悪い人になっていたのだけど、それもようやく卒業できてよかった。
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