執拗に愛されて、愛して
19 Taboo word
 朝帰りをしている、と言っても雅がちゃんと帰ってきているのか定かじゃない。というのは、定期的に消耗品が減っていたり雅の生活の後をどこか感じるので、帰っては来ているという予想だ。

 私が居ない時間を見計らって仮眠を取ったり、お風呂に入ったりしているんだと思う。普通の生活をしている事は分かるのに、もう私が帰ったその時には姿は無い。

 朝も、夜も、もうずっと長く雅には会えていない気がした。どこで何をしているのかも分からず、私は営業中の夜、平日の暇な時間を見計らってバーに顔を出した。

 中に入ると雅は出勤している様で姿は見付けたけど、お客の対応でこちらを見ていない。それでもいつも通りの笑顔で、いつも通りの雅…。その姿を見るだけで泣いてしまいそうになる。


「あれ?夏帆ちゃん。平日に珍しいね。」

 
 玲くんがいつも通り声を掛けてきて私の視線は玲くんに向く。


「…あ、玲、くんか。久しぶり。」

「久しぶり。とりあえず座りな?」


 そういつもの様にカウンター席に促されて、いつもの席に座る。玲くんは空いている時間でグラス磨きをしていたらしく、雅に接客を任せていた様だ。


「何飲む?」

「カシスソーダお願いしても良い?ノンアルで。」

「ノンアル?珍しいね。」

「うん。明日も仕事だから。」


 ドリンクを作り始めてくれる玲くんにそう答えて苦笑いしか出来なかった。お酒の失敗をしてすぐにアルコールを頼む気にはなれないし、今日は雅と話したくて来たのだから素面で居たい。
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