執拗に愛されて、愛して
20 Pledge
 その日の夜、2週間ぶりに家の前に居た。

 いつもより少し早めに会社を出て、それでも雅は居ないだろう時間帯を狙って帰ってきた。考えはまとまっているけど気持ちの整理は付いていない。

 深く息を吸って吐いて、鍵穴に鍵を差し込んでそのまま中に入ると、玄関先の靴を見て息を呑んだ。居ない、と思っていたのに、靴がある。もう既に逃げ出したい気持ちだった。

 リビングに入るドアが開いて、その向こう側に雅の姿が見える。


「…おかえり。」


 あの頃と逆だ、ただいまなんて言えなかった。辛うじて「うん」とだけ返事をして家の中に入って、習慣で手を洗ってからリビングの中に入る。


「仕事は…?」


 まずい、普通に質問をするために短い単語を話すだけでも声が震える。


「休んだ。今日は玲も居る日だったし、忙しい日でもないだろうから。」


 そう答えてキッチンから「何か飲む?」と声を掛けてきたけど首を横に振った。


「いい。もう早く終わらせたい。」


 私のその返事で雅の顔色が変わる。

 私が何となく何を言おうとしているのか分かってしまったのかもしれない。早くしないと伸ばせば伸ばす程泣いちゃいそうになる。

 もうこれ以上ここでこんなに惨めな姿をさらしたくはない。
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