副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
05 紬との邂逅
 紬のことを彼に知られてからも、私は相変わらず昼間は本業で彼と顔を合わせ、夜は週に三回のペースで家政婦の仕事をこなしていた。

 慎也さんからは紬に会ってみたいと家を訪問するたびに言われているが、のらりくらりとかわし続けている。

 そうして彼の家で行う家政婦の仕事も板についた頃、私は久しぶりに紬とお出かけしていた。

「今日は、おいしいケーキを食べに行こうねぇ」
「いーの? おたんじょうびじゃないのに」
「いーの! 最近ママ、いっぱいお仕事頑張ったから」

 ケーキが食べられると喜ぶ紬を連れて、最近できたばかりだという話題のショッピングモールへ向かう。
 駅直結の複合施設だそうで、いま流行りの飲食店やアパレルの店が入っているそうだ。
 その他にも、子ども向けの遊び場もあるようで、紬以上に私が楽しみにしていた。

「いっぱいお店があって、迷っちゃうね」

 レストラン街の手前にある案内板のパネルを見ながら、どこのお店に入るか紬と吟味する。
 大きなショートケーキやフルーツがたっぷり乗ったタルトの写真を見て、紬が指を差した。

「これ食べたい!」
「いいね、おいしそー……」

 紬が指を差したその横に、見覚えのある店の名前を見つけて思わず固まってしまう。
 彼が経営しているカフェのひとつで、今回の企画でも宣伝する予定のお店だった。

「ママ、どしたの?」
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