離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

2、夫の事情

「旦那様、離婚してください」

 あの言葉を聞いたとき、フィリクスはかなり動揺していた。

 どうして? なぜ? 
 と頭の中がパニックになったが、それはまったく顔に出さなかった。
 というよりは、出せなかった。

 フィリクスは幼少の頃からの親の虐待によって表情を表に出すことができない。
 幼少期から親の顔色を見て、機嫌を取らなければならなかったので、余計なことはしゃべらず感情を表に出さないよう努めていたら、見事に無口で無表情な大人に成長してしまったのだ。

 アリシアが離婚を決めた原因をフィリクスは考えた。

 確かにアリシアが嫁いだばかりのときはこの家はほとんど金がなく贅沢をさせてやれなかった。婚姻の儀式さえしていない。
 
 前当主の父親が莫大な借金をして死亡したため、フィリクスがすべての負債を抱えることになった。そこで手を差し伸べてくれたのが、アリシアの叔父グレゴリー男爵である。

 男爵は借金の肩代わりをしてくれたが、代わりにフィリクスに条件を出した。そのひとつが、アリシアとの縁談だった。

 フィリクスにはこの縁談を断る選択肢はなかった。

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