離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

12、王宮のパーティ

 その日は朝から忙しかった。
 アリシアは入念に髪を梳いてもらったあと、化粧を施され髪型を整えてもらい、選んだドレスに身を包んだ。
 繊細な刺繍とレースが施されたドレスに控えめなシルバーの宝石のネックレス、髪には華やかな花飾りがあしらわれている。

「旦那様、いかがでしょうか?」
「ああ、綺麗だ」

 使用人に訊かれたフィリクスは反射的にそう答えてから、急に照れくさそうに顔を背けた。
 アリシアも頬を赤らめて俯く。

「本当にお綺麗ですわ」
「きっと今夜一番輝いて見えますわ」

 使用人たちがきらきらした笑顔でそんなことを言うので、ふたりは赤面したまま黙り込んだ。
 フィリクスがこほんと咳払いをして、すっと手を差し出す。

「じゃあ、行こうか」
「はい」

 アリシアは差し出された手を取り、フィリクスと一緒に出かけた。

 パーティが初めてのアリシアは緊張していた。
 馬車の中で無表情のままがちがちに固まっていたら、フィリクスが声をかけてきた。

「アリシア、大丈夫か?」
「はい……平気です」
「……平気という顔ではないな」

 アリシアは真顔でフィリクスをじっと見つめる。目をそらすことさえできないほど緊張していた。
 フィリクスは小さく嘆息し、微笑んで言う。

「何も心配はいらない。俺のそばにいればいい」

 その言葉を聞いたアリシアはわずかに安堵感が広がり、穏やかに微笑んだ。

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