離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

13、幸福な時間のあと

 パーティのあと、フィリクスとアリシアはゆっくり王都の観光をしてから、侯爵領に戻ってきた。
 ふたりの距離が少し近くなったことに気づいた使用人たちは嬉しそうに出迎える。
 フィリクスは帰宅後休む間もなく、仕事を片付けるためにセインと執務室へ行った。

「おかえりなさいませ、旦那様」
「何か変わったことは?」
「邸宅内は安定しております」

 セインは侯爵領やその他の問題事について報告し、フィリクスは溜まった書類に目を通した。

「グレゴリー男爵の鞄に入っていた茶葉の欠片はやはり違法薬物の原料であることが判明しました」
「出どころや取引場所について詳細は?」
「マンゲル商会があやしいですね。表向きは異国の品を取り扱う行商ですが、頻繁にデートル伯爵領を訪れています」
「デートル伯爵領といえばワインが名産だ。グレゴリー男爵も懇意にしていると聞く。さぞや美味なのだろう」
「そのようですね」
「そろそろ掃除が必要だ」
「おっしゃる通りかと」

 フィリクスは目を通した書類を机に置き、おもむろに立ち上がる。
 窓の外を眺めながら、ふいにアリシアとの日々を思い出した。
 そして、胸中で呟く。

(すべて片付いたら、君にもう一度言おう)

 フィリクスは振り返ると、直立不動の姿勢でいるセインに別の話題を持ち出した。

「ところでお前、宿の予約の数を間違えていたぞ。お前がミスをするとはめずらしいこともあるものだ。疲れているのか?」
「……は?」

 セインは突っ立ったまま半眼でフィリクスを見つめた。

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