離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

3、私の居場所

「まあ、離婚申請をされたのですか?」

 その頃、アリシアは自室で侍女のエレナに髪を梳いてもらいながら、その話をしていた。

「私はもう、彼の妻でいる理由がないと判断したの」
「そうですか。私はとても残念ですが、それでもアリシア様の決断を反対するつもりはありませんわ」
「エレナならそう言ってくれると思ったわ」

 エレナはアリシアが嫁いだときから仕えてくれている専属侍女だ。
 アリシアより3歳年上。穏やかで優しい性格で、アリシアにとって姉のような存在だった。
 彼女がいたからこそ、2年もこの家で耐えられたのだ。

 侍従のセインは冷たい態度で必要最低限の会話しかしない。
 夫のフィリクスに似て無表情なのでアリシアは苦手だったが、エレナのおかげで心を保ってこられた。

「お金も十分貯まったの。しばらくは今の店に住み込みで働かせてもらおうと思ってる。話はつけてあるわ」
「そうですか。これまで頑張ってきましたものね」

 アリシアが働くと言ったとき、エレナは心配そうにした。けれど、反対はしなかった。
 この家には使用人に払う給金もほとんどなかったので、エレナも無給で働いてくれた期間があった。

 フィリクスが遠征に行ってくれたおかげで多くの仕送りをしてもらえるようになり、いくらか余裕は出てきた。
 しかしアリシアは贅沢をせず、必要なもの以外はすべて貯蓄した。

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