離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

19、ずっと待っていた

 大聖堂の裏庭にある小さな庭園。
 色とりどりの花々が咲き誇り、白いテラス席がその中心に佇んでいる。
 周囲に人の気配はなく、ただ太陽の光だけが明るく差し込み、小鳥たちのさえずりが静かに響く。
 まるで悪夢から解き放たれたような、穏やかで静かな場所だった。

 仮面の男はそっとアリシアを地面に下ろす。
 アリシアは男の顔を見上げ、ためらいながらも声を絞り出した。

「旦那様……?」

 男は何も言わず、ゆっくりと仮面を外した。
 そこに現れたのは、確かにフィリクスの顔だった。
 その瞬間、アリシアの中で張りつめていたものが一気に崩れ、感情があふれ出した。
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、震える声で呼びかける。

「旦那様……旦那様っ……よかった、本当に……! 無事だったのですね……私は、信じていました。ずっと、ずっと……あなたの帰りを……」

 アリシアの泣きじゃくる姿を見て、フィリクスはぎゅっと彼女を抱きしめた。

「アリシア……すまなかった。怖かっただろう……本当に」
「こ、わかった、です……もし、旦那様が……もう……」
「アリシア……!」

 フィリクスはアリシアを強く抱きしめて、愛おしそうに髪を撫でた。

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