離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

21、取り戻した平穏

 数日高熱でうなされていたアリシアは、浅い眠りが続き、何度も夢を見ていた。まだ両親が生きていた頃の夢だ。
 幸せと呼べる時間はそれほど多くなかったが、それでも確かに、笑顔はそこにあった。

 夢の中では両親が笑顔で迎えてくれる。
 父はアリシアの頭を撫でてくれ、母はそっと抱きしめてくれた。
 熱と疲労で心も体も限界だったせいだろう。アリシアは目の前の両親に懇願した。

「お父様、お母様、お願いです。私も一緒にお連れください」

 すると両親は笑顔のまま、優しく答えた。

「アリシア、お前の帰る場所はこちらではないよ」
「あなたにはもう、大切な家族がいるでしょう」

 母はアリシアの背中をそっと押した。

「あなたの一番大切な人のところへ、戻りなさい。アリシア」

 涙が滲んで、視界がかすんだ。

(私には両親以外に大切な人なんて……)
 
 アリシアが俯いていると、背後に視線を感じた。振り向くと、そこには穏やかな表情で立つフィリクスの姿があった。
 アリシアは驚きながも、迷わずそちらへ手を伸ばす。

 背後にいる両親の様子が気になったが、そちらへ振り返るのはやめて、フィリクスの手を取った。

(旦那様……私の一番大切な、家族……)

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