離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

5、初めての食事

 フィリクスに食事をともにしようと言われたアリシアは、エレナに手伝ってもらい、急いできちんとした格好に着替えた。
 ダイニングルームへ向かうと、そこにはすでにフィリクスがいた。

 セインが真顔でフィリクスのそばの席を促し、アリシアは気まずい思いを抱えながらそこへ腰を下ろす。すると給仕がすぐにグラスに飲み物を注いだ。

 テーブルにこれまでにないほどのご馳走が並んでいる。
 香草の香りが立ちのぼるローストチキンやじっくり煮込まれた野菜スープ、 薄くスライスされたハムとチーズの盛り合わせにオリーブが添えてあり、レモンとオリーブオイルを絞った彩り野菜のサラダと、バスケットにはクロワッサン。

 給仕がローストチキンを丁寧にカットして皿に移し、ソースをたらして食用花を添えるとふたりの目の前にそれぞれ置いた。

(こんなご馳走をいただいて、お金は大丈夫かしら?)

 アリシアがちらりと目を向けるとエレナがにっこり笑って頷いた。
 今度はフィリクスへ目を向けると、彼は黙って食事を始めた。
 アリシアは手を組んで食事の際にやるわずかな祈りを捧げると、遠慮がちに食事を始めた。

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