離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
9、変化の兆し
町へ出かけることが減ったアリシアの生活は、以前より少し落ち着いていた。もう一つの仕事のほうも区切りがついて、新しい品を考案するため幾度か細工師と打ち合わせをおこなったり、自ら手がける刺繍のデザインに思案をめぐらせたりして過ごしている。
そんな中、アリシアは空いた時間に、途中になっているハンカチの刺繍に取りかかることにした。侯爵家の紋章は複雑で難しいデザインだが、丁寧に少しずつ進めていった。
フィリクスは以前よりも頻繁に食事に誘ってくるようになった。仕事の都合で毎日とはいかないが、2日に一度は昼か夜のどちらかをともにするようになった。
そしてある日の食事の席で、アリシアは意を決してフィリクスに訊ねた。
「旦那様、あの……」
「何だ?」
「明後日の感謝祭は、何かご予定はありますか?」
フィリクスが以前に一度だけ、感謝祭の話をしたことがあった。けれど、それ以来そのことに触れてこないので、アリシアは思いきって訊いてみることにしたのだ。
フィリクスは少し間をおいてから、静かに答えた。
「そういえば、俺からその話をしたのだったな……悪い」
悪いと言われてアリシアは少し落胆したが、断られることは想定していたので気丈に微笑んで頷く。
「いいえ、大丈夫です。急なことですから……」
「その日は空いている」
「えっ?」
アリシアが驚いて顔を上げると、フィリクスは真顔のまま、まっすぐこちらを見つめていた。
そんな中、アリシアは空いた時間に、途中になっているハンカチの刺繍に取りかかることにした。侯爵家の紋章は複雑で難しいデザインだが、丁寧に少しずつ進めていった。
フィリクスは以前よりも頻繁に食事に誘ってくるようになった。仕事の都合で毎日とはいかないが、2日に一度は昼か夜のどちらかをともにするようになった。
そしてある日の食事の席で、アリシアは意を決してフィリクスに訊ねた。
「旦那様、あの……」
「何だ?」
「明後日の感謝祭は、何かご予定はありますか?」
フィリクスが以前に一度だけ、感謝祭の話をしたことがあった。けれど、それ以来そのことに触れてこないので、アリシアは思いきって訊いてみることにしたのだ。
フィリクスは少し間をおいてから、静かに答えた。
「そういえば、俺からその話をしたのだったな……悪い」
悪いと言われてアリシアは少し落胆したが、断られることは想定していたので気丈に微笑んで頷く。
「いいえ、大丈夫です。急なことですから……」
「その日は空いている」
「えっ?」
アリシアが驚いて顔を上げると、フィリクスは真顔のまま、まっすぐこちらを見つめていた。