用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~

第八章

*アランサイド

 アランの執務室は、いつも良い香りで満たされている。
 エレインがいくつかブレンドしてくれた香りの中から、その日の気分で選んだものを焚いていた。
 ハーブ以外、余分な香りが入っていないため、しつこくなく、それでいて飽きのこない上質な香りがアランは気に入っている。
 今日はローズマリーとレモンの超集中ブレンドにしたおかげで、朝から休憩も取らずひたすらに執務に打ち込めていた。
(なんとしても、ティータイムに間に合わせる……)
 ここ数日忙しくて、エレインの休憩時間に顔を出せていなかったおかげで、エレインと接する時間が極端に減っているのが耐えがたかった。
 しかも今日はテオはピアノの稽古で不在。
 エレインとゆっくり話せるまたとない機会なのもあって、アランはいつにも増して張り切っていた。
 やっと仕事に区切りが見えてきて、今日こそ一緒にお茶が飲めると意気揚々としていたアランだったが、
「今日もティータイムは諦めてくださいね」
 とセルジュが追加の仕事をデスクに乗せてきたのだ。
 真顔でそう言うセルジュが、今日ほど悪魔に見えたことは言うまでもない。
(セルジュめ……)
 ここで諦めてなるものか、とアランは鬼の形相で仕事を片づけ、セルジュに文句ひとつ言わせることなく、ティータイムの許可を奪い取った。
「時間厳守でお戻りくださいよ」
 セルジュの声を聞き流し、執務室を後にしたアランの足取りは軽い。
 外は天気が良く、程よく風が吹いていて過ごしやすい陽気だった。深呼吸して、肺の中の空気を入れ替えれば、気分まで洗われた気になる。
(違うな……エレインに会えるのが嬉しいからだな……)
 最初は、可愛い甥っ子のテオを助けたい一心で、彼女のハーブを手に入れるために婚約破棄されたエレインに声を掛けただけだった。
 彼女がなぜヘルナミス国で効能の高いハーブを作れるのかは全くの謎だったが、そんなことはどうでもよかった。
 テオの夜泣きが少しでも和らげば、それで十分だった。
(それが今では……)
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