用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~

最終章

「ねぇニコル、やっぱり派手すぎないかしら……」
 姿見の前で、ニコルの手によって着飾られていく自分の姿を目に、エレインは眉尻を下げた。姿見には、上質なシルク生地を使ったシンプルながらに品のあるデザインのペールブルーのドレスを着た自分が映っている。
 髪も結い上げて、宝石のついた髪飾りがそこかしこに散りばめられ、胸元には金貨ほどもある大きなサファイアのネックレス。
 シルクの手袋に包まれた指先にも揃いの指輪が嵌められていて、普段宝飾品を身に着けないエレインは宝石の重みとその価値の重さに生きた心地がしない。
「なぁに言ってるんですか! 相手に侮られないためにも、ちゃんとしないと! それに、これらは全部殿下がご用意くださったんですよ。受け取って差し上げなくては、殿下が悲しみます」
「そうかしら……」
「そうですよ! それに自分の瞳の色の宝石を贈るなんて、殿下もなかなかやるじゃないですかぁ」
「確かにサファイアは殿下の瞳と同じ色だけど、それに意味があるの?」
 純粋な疑問を訊いただけなのに、信じられないものでも見るような目を向けられてしまう。
「大ありです。瞳の色のプレゼントには、『あなたは私のもの』という意味が込められているんですよ。独占欲丸出しの贈り物です。ふふふ」
「な……」
(なにそれ……)
 予想外の意味に、エレインは赤面する。
 が、すぐに思い直して首を横に振った。
「そ、それは、今日は殿下の婚約者という立場で出席することになっているから、形だけよ」
(そう、形だけ……)
 自分で言って少し悲しくなった自分は、やはり心のどこかで捨てきれていないのだろうか。
 もしも、アランも自分と同じ気持ちでいてくれたら……と何度夢に見ただろう。
(夢は夢でしかないのに)
「そんなことないですよ、殿下はエレインさまのこと大好きって顔に書いてあります」
「もう、適当なこと言わないの。ほら、そろそろ時間よ、急ぎましょう」
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