離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました
プロローグ
「おかえりなさい。律くん」
須藤未依は、数年ぶりに海外から帰国した六つ年上の夫に微笑みかける。
「あぁ。ただいま」
夫の須藤律は、口の端をわずかに上げただけ。
久しぶりの再会にもかかわらず、夫婦の間には熱い抱擁や口づけといったドラマチックなものは皆無だ。
けれど、幼い頃から口数が少なくポーカーフェイスだと知っているため、特段思うところはない。
それよりも、未依にはここ数年ずっと成し遂げたいと心に決めている重大なミッションがあるのだ。
(善は急げっていうし、今がその時だよね)
未依は、肩にかけているトートバッグから薄いファイルを取り出した。
二年前に〝これ〟を用意した時は、心がずんと重く苦しかった。
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