離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました
7.後にも先にも君だけ《律Side》
――パァン!
頬を打つ音が病棟に響き、これまでざわめいていた周囲が一瞬でしんと静まり返る。
『律を返してよ!』
ケイトが突然、未依に殴りかかり、病院内とは思えない声量で叫んだ。
『律はお祖父様が認めた医師なんだから、私の夫になるべきなのよ! それなのに、あなたが日本に律を縛りつけているせいで、律は全然私を見てくれないじゃない! 全部あなたの……痛っ!』
支離滅裂な自己主張をするケイトの腕を捻り上げ、無表情で彼女を見下ろす。相手が女性だとか、尊敬する医師の孫娘だということは、もうどうでもよかった。
『聞こえていましたか? 俺の妻に暴行を働きました。できる限り早く引き取りにきてください。でないと、警備だけでなく警察も呼びます』
律は通話中の相手にそれだけ言うと、相手の返事も待たずに電話を切った。
ケイトにはアメリカ時代から何度もうんざりさせられている。甘やかされて育ったせいか常識というものが備わっていない、いかにもセレブのお騒がせなお嬢様だ。