45歳、妊娠しました

第13話 検査という選択

診察室の空気は、いつになく重かった。

医師は資料を見ながら、静かに口を開いた。



「佐藤さんのご年齢ですと、染色体異常のリスクが高まります。もちろんすべての赤ちゃんがそうなるわけではありませんが……羊水検査を検討される方も多いです」



机の上に置かれたパンフレット。

“羊水検査”と書かれた文字が、美香にはやけに濃く映った。



「ただし、検査には流産のリスクも伴います。受けるかどうかはご家族でよく話し合ってください」



医師の言葉を聞きながら、美香は曖昧にうなずいた。

帰り道、病院の出口を出ると、冷たい風が頬を刺す。

ポケットの中の手が震えているのは、寒さのせいだけではなかった。



──もし、結果が“そう”だったら?

──私は、この子をどうするの?



頭の中で問いが渦を巻く。



その夜、リビングで健一に打ち明けた。

「羊水検査、どう思う?」

健一はしばらく黙り込んでいた。

「……俺は、どんな子でも迎える覚悟はある。けど、美香が不安なら、受けてもいいと思う」



「もし……結果が良くなかったら?」

その問いに、健一は言葉を詰まらせた。

二人の間に沈黙が流れる。



隣の部屋から、結衣のドアが閉まる音がした。

家族それぞれが、まだ答えを見つけられないまま、夜は静かに更けていった。
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