45歳、妊娠しました

第15話 検査の日

病院の待合室。

白い壁と消毒液の匂いに包まれながら、美香は両手を膝の上に重ね、じっと下を向いていた。

心臓の鼓動が速い。

検査の説明は何度も聞いたはずなのに、不安は消えない。



「佐藤美香さん」

名前を呼ばれ、立ち上がる。

診察室へ入ると、医師と看護師が柔らかく微笑んだ。

「リラックスしてくださいね。すぐに終わりますから」



ベッドに横たわり、お腹を出す。

画面には、まだ小さな命が動いている姿が映し出されていた。

その姿を見た瞬間、美香の胸は熱くなった。

──どうか、無事でいて。



針が刺さる感覚。

ほんの数分だったが、時間が止まったかのように長く感じられた。



「はい、終わりましたよ」

医師の穏やかな声で、ようやく息を吐く。

しかし、不安が消えるわけではない。

結果が出るまでの二週間、その長さを思うだけで胸が締めつけられた。



帰宅後、健一が玄関で出迎えた。

「どうだった?」

「……終わった。でも、結果はまだ」

靴を脱ぐ手が震えているのに気づいたのか、健一は黙って美香の肩を抱いた。



夕食の席。

結衣がそっと尋ねた。

「ママ、大丈夫?」

美香は笑顔を作ろうとしたが、唇がうまく動かない。

「大丈夫よ。ただ……ちょっと待つだけ。それが一番つらいかもね」



食卓の明かりの下、三人は黙々と箸を動かした。

その沈黙の中に、それぞれの祈りが静かに流れていた。





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