45歳、妊娠しました

第18話 これからの道

検査結果を聞いてから数日が経った。

安心感は確かにあったが、同時に新しい不安がじわじわと胸に広がっていた。

──この子が生まれてきたとき、私はどう生きるのか。



オフィスの窓際で、資料を抱えたまま立ち尽くす。

ふと、目に映るのは自分よりずっと若い後輩たち。

深夜まで働き、無理も厭わず結果を出していく彼女たちの姿に、かつての自分を重ねる。



「佐藤さん、大丈夫ですか?」

後輩の声に、慌てて笑顔を作った。

「ええ、ちょっと考えごとをしていただけよ」



昼休み、スマートフォンに通知が届いた。

《産休・育休制度のご案内》と人事部からのメール。

その文字を見ただけで、胸の奥に重苦しいものが広がる。

──自分が休んでしまったら、プロジェクトはどうなる?

──復帰後に、居場所は残っているのだろうか。



夜、食卓で健一が言った。

「仕事のこと、そんなに抱え込むなよ。時短勤務だって選べるんだし」

「でも、私が抜けたら迷惑をかけるわ」

「君がいなくても会社は回る。けど、赤ちゃんにとって母親は君しかいないんだ」



その言葉に、美香は言い返せなかった。



一方で、結衣はテーブルの向こうで黙々とサラダを食べていたが、ふいに口を開いた。

「……ママが仕事やめてもいいと思う。でも続けたいなら続けて。どっちでも、私とパパで赤ちゃんは守るから」



意外な言葉に、美香の胸が熱くなった。

娘にそんな風に言われる日が来るなんて想像もしなかった。



その夜、美香は机にノートを広げ、仕事と家庭のこれからのバランスを一つひとつ書き出した。

すぐに答えは出せない。

けれど、もう迷うだけの日々ではなくなっていた。



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