45歳、妊娠しました
第19話 新しい働き方
週明けの朝、美香はいつもより早く出社した。
オフィスに着くとまだ数人しかおらず、静かな空気が流れていた。
窓の外から差し込む朝日を背に受けながら、人事部宛のメールを下書きに開く。
──「時短勤務の制度について相談したい」
その一文を打ち込む手は震えていた。
キャリアにしがみついてきた自分が、ついに後退するのではないか。
そんな思いが胸をよぎる。
けれど、もう一方で「守るべき命」を思うと、不思議と迷いは少なかった。
午前中の会議、部長が鋭い声を飛ばした。
「佐藤さん、この案件は君に任せたい」
一瞬、胸が高鳴る。
しかし同時に、プレッシャーがのしかかる。
「……申し訳ありません。実は、近く勤務形態の変更を検討しています」
会議室が静まり返った。
その場では詳しく言えなかったが、午後に部長室へ呼ばれた。
「どういうことだ?」
「妊娠しました。しばらくはフル稼働できません。ただ、できる範囲で責任は果たしたいんです」
沈黙ののち、部長は深いため息をついた。
「……正直、痛い。だが、君がここまで会社に尽くしてくれたのは事実だ。制度を使え。戻ってくる気があるなら、席は残しておく」
その言葉に、美香は深く頭を下げた。
帰宅後、リビングで結衣が宿題をしていた。
「どうだった、会社?」
「うん……少し道が開けた気がする」
答える美香の声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
夜、布団に入りながら、胎動を感じた。
小さな鼓動が「大丈夫」と言っているようで、美香は目を閉じた。
新しい働き方、新しい生き方が、少しずつ形になり始めていた。
オフィスに着くとまだ数人しかおらず、静かな空気が流れていた。
窓の外から差し込む朝日を背に受けながら、人事部宛のメールを下書きに開く。
──「時短勤務の制度について相談したい」
その一文を打ち込む手は震えていた。
キャリアにしがみついてきた自分が、ついに後退するのではないか。
そんな思いが胸をよぎる。
けれど、もう一方で「守るべき命」を思うと、不思議と迷いは少なかった。
午前中の会議、部長が鋭い声を飛ばした。
「佐藤さん、この案件は君に任せたい」
一瞬、胸が高鳴る。
しかし同時に、プレッシャーがのしかかる。
「……申し訳ありません。実は、近く勤務形態の変更を検討しています」
会議室が静まり返った。
その場では詳しく言えなかったが、午後に部長室へ呼ばれた。
「どういうことだ?」
「妊娠しました。しばらくはフル稼働できません。ただ、できる範囲で責任は果たしたいんです」
沈黙ののち、部長は深いため息をついた。
「……正直、痛い。だが、君がここまで会社に尽くしてくれたのは事実だ。制度を使え。戻ってくる気があるなら、席は残しておく」
その言葉に、美香は深く頭を下げた。
帰宅後、リビングで結衣が宿題をしていた。
「どうだった、会社?」
「うん……少し道が開けた気がする」
答える美香の声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
夜、布団に入りながら、胎動を感じた。
小さな鼓動が「大丈夫」と言っているようで、美香は目を閉じた。
新しい働き方、新しい生き方が、少しずつ形になり始めていた。