45歳、妊娠しました
第21話 母と娘
夕食の時間。
テーブルには健一の好物の煮魚が並んでいたが、結衣は箸をほとんど動かさなかった。
「結衣、食欲ないの?」
美香が声をかけると、結衣は「別に」と小さく返すだけ。
その態度に、美香の胸にざわめきが広がった。
──学校で何かあったのかしら。
食後、健一が風呂に入り、リビングに二人きりになったとき。
美香は意を決して口を開いた。
「結衣、最近元気ないね。学校で何かあった?」
一瞬、娘の瞳が揺れた。
けれどすぐに視線を逸らし、
「……なんでもない」
と冷たく言う。
それでも美香は引き下がらなかった。
「ママに話してごらん。黙ってると、余計につらくなるわよ」
沈黙が落ち、時計の針の音だけが響いた。
やがて結衣がぽつりとつぶやいた。
「……みんなにバレたの。ママの妊娠」
美香は息をのんだ。
「誰かが病院で見てて、クラスで言われた。……すごいね、45歳で、って。笑いながら」
結衣の目から涙がこぼれる。
「恥ずかしいんだよ! 友達のお母さんはみんな若いのに、うちは違う。なのに今さら赤ちゃん? 私、どうしたらいいのかわかんない……」
美香は立ち上がり、そっと結衣の肩を抱いた。
「ごめんね、結衣。あなたにこんな思いをさせて」
声が震える。
「でもね、私はあなたを産んだときも、ものすごく不安だったの。若かったから余計に。でも結衣が生まれて、初めて“母親になれた”って思えたのよ」
結衣は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「……ママ、また同じ気持ちになるの?」
「ええ。どんなに年を重ねても、母親としての気持ちは同じ。あなたも、この子も、私にとって大切な宝物よ」
娘はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「……ちょっとずつ、考えてみる」
その言葉に、美香の胸に温かい火が灯った。
母と娘の間に、ようやく本音が交わされた夜だった。
テーブルには健一の好物の煮魚が並んでいたが、結衣は箸をほとんど動かさなかった。
「結衣、食欲ないの?」
美香が声をかけると、結衣は「別に」と小さく返すだけ。
その態度に、美香の胸にざわめきが広がった。
──学校で何かあったのかしら。
食後、健一が風呂に入り、リビングに二人きりになったとき。
美香は意を決して口を開いた。
「結衣、最近元気ないね。学校で何かあった?」
一瞬、娘の瞳が揺れた。
けれどすぐに視線を逸らし、
「……なんでもない」
と冷たく言う。
それでも美香は引き下がらなかった。
「ママに話してごらん。黙ってると、余計につらくなるわよ」
沈黙が落ち、時計の針の音だけが響いた。
やがて結衣がぽつりとつぶやいた。
「……みんなにバレたの。ママの妊娠」
美香は息をのんだ。
「誰かが病院で見てて、クラスで言われた。……すごいね、45歳で、って。笑いながら」
結衣の目から涙がこぼれる。
「恥ずかしいんだよ! 友達のお母さんはみんな若いのに、うちは違う。なのに今さら赤ちゃん? 私、どうしたらいいのかわかんない……」
美香は立ち上がり、そっと結衣の肩を抱いた。
「ごめんね、結衣。あなたにこんな思いをさせて」
声が震える。
「でもね、私はあなたを産んだときも、ものすごく不安だったの。若かったから余計に。でも結衣が生まれて、初めて“母親になれた”って思えたのよ」
結衣は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「……ママ、また同じ気持ちになるの?」
「ええ。どんなに年を重ねても、母親としての気持ちは同じ。あなたも、この子も、私にとって大切な宝物よ」
娘はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「……ちょっとずつ、考えてみる」
その言葉に、美香の胸に温かい火が灯った。
母と娘の間に、ようやく本音が交わされた夜だった。