45歳、妊娠しました

第22話 それぞれの決意

週末の夜。

リビングのテーブルには、珍しく家族三人がそろっていた。

健一が「ちょっと真面目な話をしようか」と切り出す。



「これからのこと、ちゃんと考えておきたいんだ。出産や仕事、結衣の進学、全部含めて」



美香はうなずき、用意していたノートを開いた。

「時短勤務の件は会社に伝えたわ。プロジェクトからは外れるけど、サポートの形で続けられるようにしてもらった」



健一は少し安心したように頷いた。

「それなら無理がないな。俺も仕事のシフトを調整して、できるだけ家のこと手伝うよ。19年前と違って、今度は育児にちゃんと関わりたい」



その言葉に、美香の胸が温かくなる。

───あの頃は私も若くて、必死すぎて、夫に頼ることもできなかった。

でも今度は、違うかもしれない。



ふと、結衣が黙ったままスプーンを置いた。

「……私も、できることはやる。受験勉強もあるけど、家事とか手伝うし」

少し照れくさそうに言うその表情に、美香は胸が詰まった。



「ありがとう、結衣。無理はしなくていいのよ」

「うん……でも、弟か妹ができるなら、“お姉ちゃん”として頑張りたいから」



リビングの空気が柔らかく変わった。

三人がそれぞれの立場で不安や迷いを抱えながらも、新しい命を迎える準備を始めている。



その夜、美香は布団の中で小さな胎動を感じた。

──家族が少しずつ同じ方向を向き始めている。

そう思うと、どんな困難も乗り越えられるような気がした。



こうして、美香たちは“新しい家族の形”へと歩き出していった。



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